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※ガリラヤ湖畔のキブツのホテル「ノフ・ゲノサレ」

 「今日宿泊するホテルは“キブツ”のものです…」とイスラエル滞在中にガイドの方から説明がありました。

「きぶつ?器物?寄物??……寄付によって建てられたホテル??」と、最初は勉強不足のため何のことを言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、この「キブツ」のことを知れば知るほど、キブツという存在と出会ったことが、今回のイスラエルの旅の大きな収穫の1つであったと思います。

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※よく働き、よく遊ぶ、イスラエルのキブツ

「KIBBUTZ(キブツ)」とはヘブライ語で「集団・集合」を意味する言葉であり、イスラエルで生まれた相互扶助と平等主義に基づく「共同体(コミュニティ)」のことです。

共同体、もしくは“共同村”と言っても良いのかもしれませんが、イスラエルのキブツという共同村の歴史は、1909年帝政ロシアの迫害を逃れた若いユダヤ人男女の一群が、パレスチナに帰って最初のキブツ・デガニアをガリラヤ湖畔に作ったところからスタートしました。

彼らは、自分達の国家建設の夢を実現させようと願って、生産的自力労働、集団責任、身分の平等、機会均等という4大原則に基づく共同体を建設しようとガリラヤ湖畔で集団生活を始めたのです。

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その第一歩として彼らは農地を買い、風土病(マラリヤ)などとも戦いながら、ユーカリの木を植え、湿地帯を開墾し、血のにじむような努力の中で生活をしてキブツを発展させてきました。

やがて、ヨーロッパ諸国、イラク、北アフリカ、エジプト、南米からの新帰還者を加え、また苦しい労働と共同の努力が実を結び、キブツ運動も次第に大きくなり数も増えてきて、現在は国境地域を中心に約270のキブツが存在し、それぞれのキブツの構成員は100〜1000人、総勢15万人以上とイスラエルの総人口の3%を占めているといわれています。

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どのキブツも果樹園、綿畑、小麦畑などの広大な農場に囲まれていて、その中の一角に生活区域があります。

生活区域には、食堂を中心に郵便局、学校(大きな規模のキブツには小・中・高が揃っている)、子どもの家、図書室、売店、洗濯室、プールやテニスコートなどのスポーツ施設から映画館などの娯楽施設、そして医療施設など日常生活に欠かせない施設と住宅が集まっており、キブツの人々は全員、そこに住み、そこで労働し、そこの施設を利用して暮らしています。

農地開拓から始まったキブツのメインの産業は農場生産部門であり、酪農、養鶏、柑橘類栽培、バナナ園、養魚場、小麦、綿の栽培など多岐に渡っていますが、その農場生産技術は国際的にも最高の水準を保ち、人口の3%を占めるに過ぎないキブツが、イスラエルの農産物の実に40%を生み出しています。

これら農場生産部門に加え、多くのキブツでは、電子機器、家具、プラスチック製品、農業機械、灌漑用設備など多種多様な製品を作る工場、観光施設なども経営しています。

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キブツでの生活は、一般社会のように個人や家族が生活の単位ではなく、キブツメンバー全員が大家族として暮らしており、所有も生産も消費も、そして生活の一部も共同化されています。

共同化されているというのは、食事でいえばキブツの食堂で朝食、昼食、夕食が用意されており、共同住宅のため家賃や電気・ガス・水道代などもすべて無料、衣食住を中心とした生きていくに必要なものには一切お金はかからないということであり、病気をしても医療費は無料であり、病気で働けない間の生活の心配もありませんし、子どもが生まれても保育費や教育費もすべて無料です。

また各種施設を利用することだけでなく生活用品からタバコなどの嗜好品でさえも無料であり、さらにキブツ総会の承認を得れば、旅行に行く時は旅費が支給され、他にも毎月僅かではあるもののお小遣いも支給されるようです。ただ、基本的にキブツにいる限りは、お金を使うことはまったくないそうですが……。

一方でどんな立派な職業であろうが、また重労働や軽作業であろうが、収入はキブツで共有されるので、貧乏人もいなければ大金持ちもいない社会となります。

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キブツの仕事
食堂:調理、食器洗い、配膳
農場:果樹園などの収穫
子供部屋:幼児への食料運搬、掃除
洗濯場:クリーニング、アイロン
工場:材料運搬、製品出荷など
牛舎:乳牛の世話、搾乳
鶏舎:卵の集荷、鶏の出荷
キブツ手入:芝刈、プール掃除

キブツでの1日は早朝から始まり、それぞれの仕事によって始業時間は異なりますが、普通は6時から7時には現場に集合し、労働が開始されます。

労働開始後、1時間から2時間後に大食堂で朝食をとり、その後、昼食をはさんで13時~15時頃までに仕事は終わります。一部の工場などでは、午後や夕方から始まるような仕事もあるようです。

仕事が終われば、各自の自由時間であり、スポーツ(水泳、バスケット、テニスなど)を楽しむ人、昼寝をする人、家庭でくつろぐ人など様々なようです。

イスラエルの人々は夫婦ともに子育てにも熱心であり、日本とは違って夜遅くまで仕事をして夜中まで酒を飲んで帰ってくるような父親もいなく、夕方には帰宅して子どもと一緒の時間を過ごすことが多いようです。

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※キブツでは海外からのボランティアスタッフも募集中

これだけ見れば国家全体の共産主義社会よりも自由で柔軟で豊かな自給自足の地域共同社会であり、限界を迎えている現代の一極集中型の資本主義社会がモデルにすべき理想郷でありますが、一方で現代のキブツにも近代化の波が押し寄せて様々な問題もあるようです。

経営方針を変更して、給料制・個人化などを導入しているキブツも増えているようですし、住民が株を持って個人の資産を形成することができるだけでなく、中にはキブツ内で資金の横領があったりと大きな問題も発生しているようです。

それでも、伝統的に助け合いの精神に乗っ取って精神的にも物質的にも豊かで平等な共同村を継続できているキブツも数多く残っており、これは今後に大転換期を迎える日本社会の理想的なモデルとなると思います。

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現在の資本主義社会の中においては、都市圏に行かないと仕事もなく、仕事がなければお金を稼げず、お金がなければ生きていくことが出来ないという悪循環のスパイラルに陥った日本では、何かしらの要因によって都市圏が壊滅、はたまた食料やエネルギーの輸入国家であるため、諸外国との付き合いが途絶えた時点で社会全体は一気に崩壊へと向かう脆い社会システムとなっています。

また田舎から都市へと移住者が増えて拡大家族から核家族へと細分化され続け、隣の住民と会話をすることもなければ顔を見ることもなく、個人や家族が孤立した砂漠の中で何とかお金という幻のツールによって「消費し続ける」ことで生き延びているに過ぎません。

コンクリートジャングルで自然や資源もない都市圏において、この幻のツールであるお金が使えなくなった時、買うという消費だけで命を繋いできた人々は、この砂漠の地において生死をかけたサバイバルの時代がやって来る可能性があります。

そんな誰もが予測できる危機が現実化する前に、今こそ「人間が生きていくのに本当に必要なものは何か?」ということを一人ひとりが真剣に考える時期であり、現在の資本主義社会の中では、それが「お金」であると思い込まされていたかもしれませんが、これから先にお金の価値がなくなることを想定すると、今後は間違いなく「資源」「仲間」になると思います。

この2つが揃わない都市圏よりも、これから先は、この2つが揃いやすい田舎の存在がとても重要となると思いますが、エネルギーや食料のベースとなる資源はともかく、仲間というのは人口の多い都市圏の方が揃いやすいように思えます。

しかし、人口が多いことと仲間が多いことはイコールではなく、昔のような田舎の村社会は少人数でも家族の中でも拡大家族としてお互いが助け合い、またご近所付き合いを中心に集落全体でお互いが助け合っていたと思います。

これから先の難局を乗り越えるのは、1人や1家族では難しく、血縁に関係なく他人でも“魂の家族”としての共通認識を持つことが大切であり、お互いを信頼して尊敬しながら小規模でも良いので共同生活を実践していくことが必要となります。

その舞台として、水を森林、農業を含めて自然が豊かな八ヶ岳山麓を自分は選び、これから先に「日本版キブツ」を作っていこうと思っています。

ユダヤ人は過去の民族の歴史や思想を共有することで民族同士の絆がしっかりと結ばれていますが、国や民族の歴史を正しく教わっていない日本人は民族同士の絆は災害時などの緊急時はともかく、通常時においてはとても薄いものとなっております。

そのため、いきなり現代文明や日本社会から逸脱したコミュニティを作るには「宗教くさい」「継続できるか不安」と思う人が圧倒的に多いので、現在の日本において「日本版キブツ」となるものを作るとすれば、そのベースとなるのは、以前にもお伝えしたように法人組織による自給自足の共同体が理想的であり、あくまでも資本主義社会の枠組みの中で“円を稼げるシステム”によって日本国との貿易(?)をするようなスタンスをしばらくはとっていくことが必要となります。

つまり法人共同体の中において、社員とその家族が生きていくための食料や住居、生活用品全般を会社が事業の中で生み出し、可能な限り自給によって全員が生きていくための生活保障をし、その上で生産物やサービスとして余った部分を共同体外に放出して円を稼ぎ、自力では補えない部分に関しては会社が円を利用して外部からモノやサービスを仕入れて共同体を補っていけば良いのだと思います。

さらに理想は、様々な特性をもった共同体が複数できることで、お互いの共同体同士が欠けている部分を助け合い、食料生産が得意な共同体(会社)は食料を提供し、家作りが得意な共同体(会社)は家を提供し、さらに大きなグループ共同体として完全な循環社会を継続できれば良いと思います。

今から100年以上前、少人数の若いユダヤ人達は自分達の国家を生み出すことを目標に命をかけて動きだし、キブツを生み出して現在にまで継続させています。

ユダヤ人にも出来たのなら日本人にも出来ると思いますし、日本も縄文時代には、まさにこのキブツのさらなる原型となった完全な循環社会を築き上げていたと思いますので、日本人には日本人らしい次の文明のモデルとなる次世代キブツ、共同体を生み出す力があると思っています。

ユダヤ人は、その第一歩として農地の開墾から始めました。そして、国土の60%以上が砂漠であるのに世界最先端の農業技術によって砂漠を緑化し、自給率を100%まで引き上げましたが、その件については、また別の記事でお伝えできればと思います。